1.簡易宿所(ゲストハウス)の開業に必要な手続と許可
旅館業法では、簡易宿所は「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの」(旅館業法2条4項)と定義されています。
例えば、ゲストハウスやカプセルホテル、ユースホステル、B&B。また、民宿もこれに該当することが多いです。
営業には、旅館業法に基づき、都道府県知事(政令指定都市、中核市等保健所政令市では市長、特別区では区長)の許可を受ける必要があります(旅館業法3条1項)。
2.簡易宿所の主な構造設備基準
簡易宿所の構造設備基準については、開業予定の物件の所在地の条例や施行規則を調べる必要があります。地域により基準はかなり違いますので、例えば京都市なら条件を満たす物件でも、同じ物件が大阪市では条件を満たさず、簡易宿所を開業できないケースもあります。
(◇は、大阪市の場合に加わる要件です。旅館業法施行令1条3項参照)
1.客室数
⇒規定なし
2.客室の構造と床面積
⇒延床面積は、33㎡以上であることが必要(※10名未満の場合は、1名あたり3.3m以上)
階層式寝台の場合、上段と下段の間隔は、おおむね1m以上
◇1客室の床面積は、4.9㎡以上
(クローゼット、押入れ等常時閉鎖空間は含まれない)
◇定員1名の場合、客室の延べ面積は、総客室の延べ床面積の2分の1未満
◇ 定員4名以上の客室(多数人部屋)の合計延べ床面積は、総客室の延べ床面積の2分の1以上
→部屋数ではなく、延べ床面積であることに注意が必要です。
◇宿泊施設は、他の営業に使われる施設と明確に区画される構造
→施設の入口、廊下等を含めて専用のものとすることが必要です。他の店や住居と明確に区分されていない場合は許可されません。
◇ 階層式寝台のある場合
・他の寝台から見通すことができない構造又は設備
・寝台は、幅 0.9 m以上、長さ 1.8 m以上
・上段の寝台には、転落防止の設備があること
◇3.玄関帳場(フロント)
⇒宿泊者等との面談に適する玄関帳場が必要。この条件がネックになることが多いです。
4.ロビー等
⇒規定なし
5.採光・照明等
◇採光上有効な窓の設置が必要
⇒換気、採光、照明、防湿及び排水について適当な設備が必要。つまり、全く窓のない部屋で簡易宿所の営業はできません。また、大阪市の場合、客室の窓は床面積の10分の1以上であることが必要ですので、客室に窓があっても、窓が小さすぎる場合は簡易宿所の営業許可は下りません。
6.入浴施設
⇒需要を満たす適当な規模の入浴設備(※近隣に公衆浴場がある場合等を除く)
7.洗面
⇒需要を満たす適当な規模の洗面設備
8.トイレ
⇒適当な数
◇9.学校、保育所、公園等の敷地周囲110メートルの区域内の場合
以下の要件が加わります。
(1)客室に寝台がある場合 次のいずれかに適合すること
・定員1名の客室数が、寝台のある客室総数の3分の1以上で、かつ、2人用寝台のある客室数が寝台のある客室総数の3分の1以下であること
・客室数が100室以上であること
・幅0.9m以上の独立した寝台が4つ以上ある客室が、寝台のある客室総数の2分の1以上
→誤解しないでいただきたいのは、これは学校、保育所、公園等の敷地周囲110メートルの区域内の場合は、簡易宿所が開業できない、という意味ではありません。照会が必要になるのと、多くの場合、部屋割りが変わり、収容人数が少なくなるとお考えください。
(2)施設の外観と外部の広告物
次の基準に適合すること。
・著しく奇異なデザインではない
・周囲の環境と調和が保たれている
・人の性的好奇心をそそるおそれがある広告物を備え付けていない
・市規則で定める基準に適合する色や模様、照明設備であること
→いわゆる偽装ラブホテル防止のための規制です。
(3)以下の色を使用する場合、各立面の面積のうちに当該色を使用する部分の総面積の割合が20分の1以下であること
・マンセル表色系で赤(R)系の色相の色のうち、彩度6を超える色又は彩度3を超え、かつ、明度4を超える色
・マンセル表色系で黄赤(YR)系又は黄(Y)系の色相で、彩度4を超える色
・マンセル表色系で前2号に掲げる色相以外の色相で、彩度2を超える色
・金色
→壁が赤色、金色、黄色の場合は注意が必要です。特に、レンガ造りの建物等、赤色は結構あります。
(4)照明設備
・サーチライト及び建物全体を照らす照明設備がないこと
・光源が点滅する照明設備がないこと
上記は、主な構造設置基準ですが、大阪市以外の地域では、上記の要件に加えて、各都道府県等が定めた条例の基準に適合する必要があります。
また、宿泊施設として簡易宿所(ゲストハウス)の許可を得るためには建築・消防等の各法令に適合している必要がありますので、その許可や確認を受けなければなりません。
建物の用途が住居になっているマンション等の共同住宅を使用しての許可申請の場合は、賃貸借契約又は管理規約に反していないかの注意も必要になります。
ですので、簡易宿所(ゲストハウス)の許可申請をオーナーさんが一人でやっていくのは相当困難であるといえます。それぞれの法令に留意しながら、行政書士や建築士のような専門家と協力しながら手続きを進めることがベターであると思われます。
3.ゲストハウス開業と建築基準法上の許可手続き
既存の住宅などに使用していた建築物をゲストハウスを開業するのに利用する場合、床面積が100㎡を超えるときは建築基準法上の用途変更の為の建築確認申請が必要になります。
したがって、建物の用途変更の建築確認申請をしなければなりません。
この建築確認申請にはある程度、手間等がかかりますので、既存の住宅等からの変更を考えている方は床面積が100㎡を超えるかに注意してください。
また、今後物件の取得を考えている方は、できる限り床面積が100㎡を超えないように注意しましょう。
ただ、33㎡以上のぎりぎりの物件の場合、実測してみると実は33㎡未満だった、ということもありますし、多人数を収容できないことから、収益性も悪くなってしまいます。
過去の事例を見る限り、収益性を高めるには、やはり80㎡以上は必要かと思います。
ですので、新規にゲストハウス開業物件をお探しの方は、80㎡以上100㎡未満の広さを一つの基準にしたらいいかと思います。
また、注意しなければいけないのは、床面積が100㎡未満であっても、建築確認申請が不要というだけで、建築基準法上の基準を満たしていなくても簡易宿所の営業が行えるというわけではない、ということです。
つまり、用途変更のための建築確認申請が不要=オーナーは何をしてもいい、ということにはならず、物件オーナーは建築物を適法な状態で使う必要があります。
また、条例により独自に100㎡未満の広さであっても、既存の建物を簡易宿所等に利用する場合は、建築基準法上の基準を満たす必要がある、という規定をおいている場合もあります。
したがって、100㎡未満の広さ=建築基準法はクリア、と安易に考えるのではなく、物件の取得や工事前に必ず専門の建築士さんと相談しておくことが必要です。
4.簡易宿所開業許可と消防法の許可手続き
簡易宿所(ゲストハウス)を開業するためには、消防法に基づく手続も必要になります。
ゲストハウス開業のためには旅館業営業許可が必要ですが、旅館業営業許可申請には消防法令適合通知書が必要だからです。
そのため、旅館業営業許可申請前に、消防署への相談→消防法令適合通知書交付申請を行わなければなりません。
具体的な措置としては、誘導灯の設置、自動火災報知機の設置等です。広さによってはスプリンクラーが必要になることもあります。
こちらの消防法上の手続きについては、火事の際に人命に関わる問題になるため、きちんと行わないといけません。
ただし、一般的には費用と手間をかければできるものですので、やる気とお金があればできる条件であるとお考えください。
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